東郷青児
「望郷」
古代ギリシャの神殿のような遺跡の前にたたずむ女性。日本国際美術展で一般入場者の投票による「大衆賞」を受賞した作品です。「青児美人」とうたわれた甘美な女性と抒情性が「通俗」とも呼ばれましたが、好き嫌いは別にして、記憶に残る「東郷様式」の代表作です。
背景の遺跡は、大衆が美術全集に親しむようになった1930年代半ばから、東郷のレパートリーに加わりました。郷愁は、フランスに7年間滞在した20歳代から続く東郷のメインテーマのひとつです。《望郷》の発表は東京タワー完成の翌年。景色が劇的に変わる経済成長のただ中にいた人々の心には、東郷の描く甘い感傷がしみたのかもしれません。
東郷青児Seiji Togo (1897-1978)
東郷青児は、鹿児島に生まれ、東京を拠点に二科会で活動した洋画家です。19歳で描いた ≪パラソルさせる女≫(1916年)は、初出品にして二科賞を受賞し、日本美術界で最初期の前衛絵画とみなされています。24歳から7年にわたるフランス滞在では、ピカソから独自のスタイルを貫く姿勢を学び、西洋絵画の伝統技法を研究するほか、仕事を通じて装飾やデザインも習得しました。帰国後はモダンな女性の新しい理想像を生み出し、壁画や挿絵などに多彩な仕事を残しています。
当館は、1978年に東郷青児の逝去に伴い、遺族から東郷の作品約150点の寄贈を受け、現在では、初期から晩年までの油絵約70点を含む作品約240点と資料群を収蔵しています。
年譜
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18970歳
4月28日鹿児島生れ。
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191013歳
青山学院中学部入学。
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191518歳
山田耕筰の東京フィルハーモニー赤坂研究所の一室で制作。日比谷美術館で初個展、これを機に有島生馬を知り、以後師事。
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191619歳
第3回二科展初出品、二科賞。
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192124歳
フランス留学。ミラノで未来派運動に参加する。
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192831歳
帰国。第15回二科展に滞欧作23点特陳。昭和洋画奨励賞。
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193134歳
二科会会員。
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193841歳
二科会に「九室会」が結成され、藤田嗣治と顧問になる。
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194548歳
終戦、二科会再建に挺身。
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195760歳
日本芸術院賞、’60年同会員。
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196164歳
二科会会長。海外交流を推進。
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196972歳
フランス政府から芸術文化勲章。
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197477歳
アルジェリアのタッシリを探訪。
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197679歳
勲二等旭日重光章。東郷青児美術館開設。
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1978
4月25日熊本で客死、享年80歳。
画業の概要
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前衛的絵画とフランスでの修業1910年代-1928
1915(大正4)年、東郷は18歳の時の初個展で「未来派風」の前衛的な新人として注目され、翌年に初出品した二科展で二科賞を受賞します。1921(大正10)年から7年間滞在したフランスでは、ピカソらと交流しつつ美術館で歴史的な西洋絵画を研究し、幾何学的な構成と抒情性を統合した画風を作りあげました。
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モダニズムと多彩な仕事1928-1930年代前半
帰国した東郷は、震災から復興した東京を彩るモダニズム文化に受け入れられました。高い評価を受けているシンプルでしゃれた装幀や挿絵、室内装飾や舞台装置などもデザインします。二科展に発表した幻想的な油彩画は、中川紀元や古賀春江らの作品とともに「新傾向」として話題になりました。
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「青児美人」と「東郷様式」1930年代後半-1950年代
1935(昭和10)年前後、東郷の人生は大きく変わりました。大先輩の藤田嗣治と大画面の装飾画に挑戦し、百貨店や画商から毎年のように個展の依頼がくるようになります。それにつれ西洋の名画にならったモティーフをレパートリーに加え、近代的な女性美を生み出していきました。
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円熟とさらなる模索1960年代-1978
1960年代から、東郷は二科会の交換展のため毎年のように世界各国へおもむきました。同時に、確立した画風を自ら壊すように、盛り上がった絵具と荒々しいタッチを試み、抽象画のようなデフォルメにとりくむほか、旅先で取材したアフリカやアラブ諸国、南米などの風俗をモティーフにとりいれていきました。
東郷青児 コレクションハイライト
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ピエロ
1926年 油彩・キャンヴァス 90.8×63.4cm
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黒い手袋
1933年 油彩・キャンヴァス 119.2×68.2cm
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婦人像
1936年 油彩・キャンヴァス 73.3×53.5cm
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古城
1970年 油彩・キャンヴァス 60.6×50.2cm
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パラソルさせる女
1916年 油彩・キャンヴァス 66.1×81.2cm
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女体礼賛
1972年 油彩・キャンヴァス 145.8×89.5cm
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超現実派の散歩
1929年 油彩・キャンヴァス 64×48.2cm
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鳥と少女
1971年 油彩・キャンヴァス 91.1×66.2cm
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タッシリ
1974年 油彩・キャンヴァス 226.5×181.5cm
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望郷
1959年 油彩・キャンヴァス 116.1×90.7cm
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コントラバスを弾く
1915年 油彩・キャンヴァス
コレクションフィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》
1987年にポスト印象派の画家ゴッホの《ひまわり》がコレクションに加わり、以降、
アジアで唯一、ゴッホの《ひまわり》を見ることができる美術館として親しまれています。