扇子を持つ女人
東郷青児
舞踊のお稽古を思わせる和装の美人。白地にぼかした藍色の花柄の着物と、淡紅色の帯揚げとの組み合わせが涼しげで上品な雰囲気を醸し出している。着物業界と美術家のコラボレーションは大正後期から昭和十年代にかけて流行し、画家たちが意匠を提供した着物とその下絵の展示会が開催された。デザインの刷新を求めた着物業界のために、モダンな幾何学模様から大胆で奇抜な柄まで数々の意匠が生み出され、東郷による下絵も残っている。藍染めでは、染め加減の各段階に「藍四十八色」とも呼ばれる色名がつけられているが、東郷もまた、この作品の背景や着物、扇子に見られるように、藍や紺から灰色まで微妙に異なる様々な青色の調和を生み出した。